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越境物に困ったときの対処法|民法改正で変わった解決方法を解説

隣地から伸びてきた木の枝、越境した塀、はみ出した屋根に困っていませんか。

2023年の民法改正で対処の選択肢は広がりましたが、勝手に処理すると違法になる場合もあります。

この記事では、越境物の種類別の対処法と、トラブルを防ぎつつ解決する手順を解説します。

この記事でわかること
  • 越境物の定義
  • 越境物の法的な扱い
  • 越境物の種類別の対処法
目次

越境物とは

越境物とは、隣地から自分の土地や建物の境界線を越えて入り込んでいる物のことです。

法律上の正式な用語ではなく、不動産取引や近隣トラブルの場面で使われる慣用的な表現ですが、土地の所有権を侵害する状態として民法上の問題になります。

近隣トラブルの相談で多く見られるのは、以下のようなものがあります。

越境物の例
  • 隣地から伸びてきた木の枝や根
  • 地中を這ってきた根による敷地の隆起
  • 境界線を越えて建てられた塀や擁壁
  • 上空にせり出した屋根や庇
  • 敷地に設置されたエアコン室外機
  • 地中の配管
  • 繁茂した雑草

越境物が問題となる理由は、土地の所有権の範囲は地表だけでなく上空と地下にも及ぶためです。

隣地の物が境界線を越えて自分の敷地に入っている状態は、所有権の侵害にあたります。

所有者は越境物の撤去を求める権利を持ちます。

越境物の種類別の対処法

越境物への対応は、対象が何であるかによって取れる手段が変わります。

代表的な5つの越境物について個別の対処法を解説します。

木の枝

木の枝が越境してきた場合、原則として自分で勝手に切ることはできません。

民法233条1項では「土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」と定められています。

つまり、所有者に切除を依頼する権利はあっても、自分で実行する権利はないという建付けになっています。

枝には果実が付いていることもあり、所有者にとって財産的な価値を持つ場合があります。

法律はこうした枝の財産性を考慮して、所有者の同意なく切除する行為を制限してきました。

所有者が応じない場合の手続きは、訴訟を提起して切除を命じる判決を取り、強制執行で第三者に切除させるという重い手順しかなく、現実的に使いにくい制度でした。

2023年4月の民法改正によって、一定の要件を満たせば自分で切除できる例外が新設されています。

木の根

木の根は、枝とは扱いが異なります。

民法233条4項では、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができると定められています。

木の枝と違って所有者に依頼する必要はなく、自分の判断で切除して構いません。

根が枝と異なる扱いになっているのは、根に財産的な価値がほとんどない点と、地中にあるため隣地に立ち入らずに切除できる点が理由として挙げられています。

根を放置すると敷地内の建物の基礎を持ち上げたり、配管を破損させたりする実害が発生しやすいため、迅速な対応を可能にする趣旨です。

ただし、切除によって木が枯れてしまうほど大規模に切り取ると、所有者から損害賠償を請求される可能性があるため、必要最小限の範囲にとどめる配慮が求められます。

建物や塀

建物や塀が境界線を越えている場合、自分で取り壊すことは認められません。

建物や塀は土地に固定された不動産または工作物であり、勝手に撤去すれば器物損壊罪や損害賠償の対象になります。

所有者と話し合って撤去や境界の調整を求めるのが原則的な進め方です。

ここで注意すべき点は、越境状態を長期間放置すると時効取得のリスクが生じることです。

越境部分を所有者が一定期間継続して占有した場合、その部分の所有権を取得する可能性があります。

越境を発見したら早めに書面で越境の事実を確認し、将来の建て替え時に是正する旨の合意書を交わしておくと安心です。

境界が曖昧な場合は、土地家屋調査士に依頼して境界確定をしておきます。

屋根や庇

屋根や庇が上空にせり出している場合も、自分で切り取ることはできません。

建物本体と一体の構造物であり、勝手に削れば建物全体への損害賠償責任を負うことになります。

落ち葉や雪が自分の敷地に落ちてくる、雨水が敷地内に流れ込むといった実害がある場合は、所有者に話し合いで撤去や改修を求める必要があります。

屋根の越境は、建物を新築・建て替えする際に発覚することが多いです。

古い住宅では境界線への配慮が現在ほど厳密でなく、屋根が数十センチ越境している事例が見られます。

こうしたとき即時の解体撤去を求めるのは現実的ではないため、所有者が将来建て替える際に是正する旨を書面で合意するという対応が一般的です。

雨水の流入で実害が出ている場合は、雨樋の設置や排水経路の変更といった部分的な改修を求めることがよくあります。

エアコン室外機や配管

隣地から自分の敷地にエアコン室外機が越境している、配管が地中を通っているといったケースもあります。

室外機や配管は建物本体ほど移設が困難でない場合も多く、所有者に依頼すれば移設してもらえる可能性が比較的高い越境物です。

設置の経緯によっては、口頭で了承を得て長年置かれているケースもあります。

このような場合、所有者が代替わりして越境の経緯が分からなくなっている事例も少なくありません。

撤去や移設を求める際は、いつから設置されているか、当時の所有者間でどのような取り決めがあったかを確認することが重要です。

配管の場合は給水・排水・ガスといったライフライン設備にあたるため、急な撤去は隣家の生活に支障をきたします。

代替経路の確保とセットで協議を進めることになります。

越境した枝を自分で撤去できる例外について

越境物としてよくある枝について、例外的に自分で切除できるケースはどのような場合でしょうか。

2023年4月1日に施行された改正民法では、原則を維持しつつ、3つの要件のいずれかを満たせば越境された土地の所有者が自ら枝を切除できるようになりました。

改正前は所有者に依頼するか訴訟を起こすしか選択肢がなく、対応が過重だという指摘を受けて整備された規定です。

3つの要件を順に確認していきます。

催告しても所有者が切除しない場合

民法233条3項1号では、竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、所有者が相当の期間内に切除しないときは、自ら枝を切り取ることができると定められています。

相当の期間」とは、所有者が枝を切除するために必要な時間的猶予を与える趣旨で、一般的には2週間程度と考えられています。

催告は口頭でも可能とされていますが、後日言った言わないといった争いを避けるため、書面で行うのが基本です。

配達証明付きの内容証明郵便を使えば、いつ催告したかの証拠が残ります。

催告書には越境している枝の場所、切除を求める旨、相当の期間の目安、応じない場合は自ら切除する意思を記載します。

隣地が共有地の場合は共有者全員に催告する必要があるため、相続未登記で相続人が多数いるケースでは手続きが煩雑になる点に注意が必要です。

所有者が不明の場合

民法233条3項2号では、竹木の所有者を知ることができない、または所在を知ることができないときに、自ら切除できると定められています。

空き家から越境している枝や、相続放棄で所有者が事実上不在になっている土地から伸びてきた枝が典型的なケースです。

所有者を知ることができない場合とは、土地の登記簿を確認しても所有者が特定できない状況を指します。

所在を知ることができない場合は、登記簿上の所有者は判明しているものの、住所地に住んでいない、転居先が不明といった状況です。

実際に切除に踏み切る前に、登記簿の取得や住民票の追跡など所有者を探索する一定の調査を行い、その記録を残しておくことが、後のトラブルを防ぐ上で重要です。

調査の結果として所有者が分からない場合に、切除に進むという順序になります。

急迫の事情がある場合

民法233条3項3号は、急迫の事情があるときに直ちに切除できると定めています。

例えば台風や地震で越境した枝が折れかかっており、放置すれば自分の家や通行人に被害が及ぶような緊急事態が想定されています。

一方で、屋根に落ち葉が積もって雨樋が詰まる、外壁に枝が当たって劣化が懸念されるといった状況は、被害として深刻ではあるものの、即座に切らなければ重大な損害が発生するとまでは言えないため、急迫性は認められないと考えられます。

緊急性を主張して切除した後で所有者から争われた場合、急迫性の有無は最終的に裁判所が判断することになります。

なお、改正民法209条により、越境した枝を切り取るために必要な範囲で隣地を使用することも認められています。

切除にかかった費用は、基本的に竹木の所有者へ請求できると考えられています。

越境物を自分で撤去するリスク

法律で認められた範囲を超えて、自分の判断で越境物を切除・撤去すると、刑事責任や民事責任を問われる可能性があります。

器物損壊罪に問われる可能性

民法上の権利がない状態で他人の枝や塀を勝手に切除・撤去すると、刑法261条の器物損壊罪に問われる可能性があります。

器物損壊罪の法定刑は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。

隣人との小さなトラブルから刑事事件に発展するケースは現実に存在します。

器物損壊罪は親告罪なので、被害者の告訴がなければ起訴されません。

隣人が告訴に踏み切れば捜査が始まり、起訴されれば刑事裁判の被告人になります。

前科がつけば仕事や社会生活にも影響しかねません。

越境しているのだから切って当然」と思われるかもしれませんが、法律で認められた要件を満たさない撤去は行わないようにしましょう。

損害賠償を請求される可能性

刑事責任を問われない場合でも、民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。

もしも切除した枝が果樹で実をつけていた場合、その経済的価値に対する賠償を請求される可能性があります。

庭木として手入れされていた樹木の枝を必要以上に切って樹形を損なった場合も、所有者から賠償請求を受けることが考えられます。

損害賠償の金額は越境物の価値や被害の程度によって変わりますが、感情的な対立が背景にあると争いが長引きやすい傾向があります。

隣人関係が悪化すれば、生活全体への影響も無視できません。

自力救済による解決は短期的には早く見えても、長期的には大きな負担を生む選択になりかねないということです。

法律で認められた手続きを踏めば、切除費用を所有者に請求できる可能性があるため、適切なルートで対応する方が経済的にも有利になります。

トラブルを避けるためにできること

越境物の問題を穏便に解決するためには、感情的な対立を避けながら段階的に手続きを進めることが大切です。

話し合いから専門家への相談まで、3つのステップで現実的な解決手順を解説します。

話し合いで切除を依頼する

最初に取るべき行動は、所有者に直接話し合いを持ちかけて切除を依頼することです。

隣人との関係性が良好な場合は、対面で事情を説明して協力を求めれば、多くのケースで応じてもらえます。

話し方の工夫として、責める口調を避け、自分が困っている状況を客観的に伝えることが重要です。

話し合いの場で具体的に伝えるべき内容は、越境の事実、生じている実害、希望する対応の範囲、対応の期限です。

困っている具体的な状況を伝えれば、相手も自分事として受け止めやすくなります。

費用負担についても、所有者負担が原則であることを踏まえつつ、一部を自分が負担して関係を保つという選択も柔軟に検討する価値があります。

話し合いの内容は備忘のためメモに残しておくと、後の手続きで活用できます。

書面で催告する

口頭の話し合いで進展しない場合や、最初から書面で記録を残したい場合は、書面による催告に進みます。

書面の形式は内容証明郵便が推奨されます。内容証明郵便は、誰がいつ誰に対してどのような内容を送ったかを郵便局が証明する仕組みで、後の訴訟や自力切除の前提となる証拠として有効です。

催告書に記載する内容は、越境している枝の場所、切除を求める旨、対応の期限(2週間程度)、応じない場合は民法233条3項に基づき自ら切除する意思、切除費用を請求する意思などです。

文面は感情的にならず、事実と求める対応を簡潔にまとめます。

配達証明を付けることで、相手に届いた日付も記録に残ります。

書面での催告を経ることで、自力切除の要件を満たす段階に進めるとともに、所有者に問題の深刻さを伝える効果も期待できます。

専門家に相談する

話し合いも書面催告も進まない場合や、越境物が建物・塀のように自力切除の対象にならない場合は、専門家への相談が次のステップです。

相談先は内容によって使い分ける必要があります。

法的な対応や訴訟が視野に入る段階では弁護士、書類作成や登記の確認が必要な場合は司法書士、境界が不明確な場合は土地家屋調査士が適しています。

費用負担を抑える方法として、自治体が運営する無料相談窓口の利用があります。

多くの市区町村では、月数回程度、弁護士や司法書士による法律相談を無料または低額で提供しています。

法テラス(日本司法支援センター)でも、収入要件を満たせば無料の法律相談を受けられます。

最初の相談で問題の整理と方針の検討ができれば、その後の対応が大きく前進します。

空き家から越境している枝の場合は、自治体の空き家担当窓口に相談することで、自治体から所有者に連絡してもらえるでしょう。

まとめ

越境物に困っているときの対処についてお伝えしました。

対象が枝・根・建物・設備のいずれかによって、取れる手段は変わります。

木の根は自分で切除できますが、枝は原則として所有者への依頼が必要です。

2023年の民法改正では、催告後・所有者不明・急迫時の3つの要件を満たすときに限り、自力での切除が認められるようになりました。

要件を満たさずに切除すると、器物損壊罪や損害賠償のリスクを背負うことになります。

境界が曖昧で対応に迷う場合は、自治体の無料法律相談や法テラスを活用し、専門家の助言を得ることから始めてみてください。

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