「相場より安い物件を見つけたけれど定期借家だし、もしかして事故物件?」
このように不安に思われることもあるでしょう。
結論からお伝えすると定期借家契約であることと、その物件が事故物件であることに直接的な因果関係はありません。
しかし、この2つがセットで語られるのには、不動産業界の仕組みに裏打ちされた理由があります。
この記事では、なぜ定期借家に事故物件のイメージがつきまとうのか、その真意と実態をプロの視点で解説します。
- 定期借家と事故物件が混同されやすい理由
- オーナーが定期借家にする事情とメリット
- 事故物件の「告知義務」に関するルール
- 定期借家契約を結ぶ前に確認すべき注意点
定期借家に事故物件が多いというのは誤解!
定期借家契約で物件を探していると「定期借家には訳あり物件や事故物件が多いから注意した方がいい」というアドバイスを受けることがあります。
インターネット上の掲示板や口コミサイトでも、同様の情報を目にする機会は少なくありません。
具体例としては以下のような内容です。
- 定期借家として貸し出されている物件の多くは、過去に自殺や事件があった事故物件である
- 家賃が安い定期借家は、事故物件だから相場より安くなっている
特に不動産に詳しくない人がこうした情報に触れると、定期借家全体に対して警戒心を抱いてしまいます。
本来、定期借家の安さは契約更新ができない不便さに対する正当な対価です。
過去に一部の業者が「事故物件の告知義務を1人入居させることでリセットする」という手法に定期借家を悪用したことが誤解を生むきっかけになりました。

定期借家と事故物件の関係

定期借家契約と事故物件の間には、法的にも実態としても関連性はありません。
定期借家は契約形態の一つであり、事故物件は物件の履歴に関する分類です。
この二つは全く異なる概念であり、定期借家だから事故物件が多いという因果関係は存在しません。
定期借家の物件数における事故物件の割合
定期借家として貸し出されている物件のうち、事故物件が占める割合について公的な統計データは存在しません。
しかし、数多くの契約を扱う現場の感覚から言えば、定期借家だからといって事故物件である確率は、通常の物件と比べて決して高いわけではありません。
そもそも「定期借家」はあくまで契約の形式であり、「事故物件」は物件の経歴という全く別の事柄だからです。
確かに、過去の事故を理由に定期借家という形を選ぶ大家さんは一部に存在します。
しかし、それは事故物件という特殊な事情を抱えた際、入居者の入れ替わりをコントロールしたいという大家さんの経営判断によるもので、定期借家という仕組みそのものが事故物件のために作られたわけではないのです。
市場に流通している定期借家のほとんどは、転勤中の持ち家を一時的に貸し出したいケースや、将来の建て替え・再開発のスケジュールが決まっている物件など、物理的な理由によるものが圧倒的多数を占めています。
したがって、ネット上の極端な情報を鵜呑みにして「定期借家=事故物件」と一括りにするのは、優良な物件を検討リストから外してしまうことになりかねません。
定期借家として市場に出ている物件全体を俯瞰すれば、事故物件ではない通常の物件が大多数であり、安さの正体は期間の制約という条件面にあると考えるのが自然です。
普通借家との比較
普通借家契約でも事故物件は存在します。
事故が発生した物件の大家は、普通借家として貸し出すか定期借家として貸し出すかを選択できますが、どちらを選んでも事故の告知義務は変わりません。
宅地建物取引業法では、事故物件であることを借主に説明する義務が貸主と仲介業者に課されています。
定期借家だけが事故物件を隠しやすい契約形態というわけではなく、告知義務は契約形態に関わらず同じように適用されます。
普通借家でも定期借家でも、事故物件であれば必ず告知されなければならないというルールは変わりません。
したがって「定期借家だから事故物件のリスクが高い」という考え方には根拠がないのです。
誤解が生まれた3つの理由
定期借家に事故物件が多いという誤解が広まった背景には、主に3つの理由があります。
家賃の安さに対する先入観
定期借家は普通借家と比較して家賃が安く設定されているケースが多く見られます。
定期借家の家賃が相場より安いのには「経済的な合理性」があります。
そもそも定期借家には、期間が来れば必ず退去しなければならないという、借り手側にとっての大きなデメリットが存在します。
そのため、普通借家と同じ家賃設定では入居者が集まらず、不便さを補うために家賃を2〜3割程度下げるのが業界の通例となっているのです。
例えば、相場10万円の物件が8万円で募集されている場合、その2万円の差額は長く住み続けられないリスクに対する値引きに過ぎません。
しかし、不動産の仕組みを知らない人は、この価格差だけを見て「安すぎる。何か隠された問題があるに違いない」と、物件自体の欠陥や過去の事故に結びつけて考えてしまいます。
大家側からすれば、家賃を下げる代わりに「確実に物件を返してもらえる」という権利を確保しているわけであり、安さの正体はあくまで契約条件の制約です。
この条件による値引きと事故による値引きを混同してしまう心理が、「定期借家=事故物件」というイメージを定着させている要因です。
契約期間が決まっていることへの疑念
定期借家契約では、あらかじめ契約期間が定められており、期間満了時には更新がありません。
この仕組みを知った人の中には「なぜわざわざ期間を区切るのか、長く住まれると困る理由があるのではないか」と考える人がいます。
期間を区切る理由として真っ先に思い浮かぶのが「事故物件だから、告知義務がなくなるまでの期間だけ貸したいのではないか」という推測です。
国土交通省のガイドラインでは、事故発生後おおむね3年間は告知が必要とされていますが、この期間を定期借家でやり過ごそうとしているのではないかという疑いを持たれることがあります。
しかし実際には、定期借家が選ばれる理由は事故物件対策とは全く関係ないケースが大半です。
転勤で数年間だけ自宅を貸したい、建て替えまでの期間だけ貸したい、相続した物件を売却するまでの間だけ貸したいなど、大家側の事情で期間を限定する必要がある場合に定期借家が活用されています。
一部の不適切な情報発信
インターネット上では、事実確認が不十分な情報や、個人の限られた経験に基づく意見が広まりやすい環境があります。
実際に一つか二つの事故物件が定期借家として貸し出されている事例を見た人が「定期借家は事故物件だ」と一般化して発信してしまうケースがあります。
不動産ポータルサイトのコメント欄や掲示板では「定期借家で安い物件を見つけたが、調べたら事故物件だった」という体験談が時々投稿されます。
このような個別の事例が、あたかも定期借家全体の傾向であるかのように受け止められてしまいます。
実際には定期借家の中で事故物件は一部に過ぎないにもかかわらず、印象的な体験談の方が記憶に残りやすいため、誤解が強化されていきます。
定期借家契約の本来の目的

定期借家制度の創設理由
定期借家制度は、従来の普通借家契約が抱えていた課題を解消するために2000年に導入された比較的新しい仕組みです。
制度が創設された背景には、一度貸し出すとなかなか物件を返してもらえないという、大家側の不満がありました。
これまでの普通借家契約では、借主が希望する限り、正当な事由がない限り契約は更新され続けます。
借主の居住権を守る点では優れていますが、大家にとっては「数年後に自分が住む」「時期が来たら建て替える」といった将来の計画が立てにくいという側面がありました。
こうしたリスクを恐れた結果、貸せる状態にありながら市場に出ない空き家が増加し、住宅供給の停滞を招いていたのです。
定期借家制度は、このような「貸したくても貸せない」状況を改善し、住宅の有効活用を促進することを目的としています。
契約期間の満了とともに確実に契約が終了する仕組みを整えることで、大家が安心して物件を貸し出せる環境を構築しました。
国土交通省も定期借家制度の普及によって、良質な賃貸住宅の供給量が増え、結果として借主の選択肢が広がることを期待しています。
定期借家が選ばれる主なケース
定期借家契約が活用されている事例として最も多いのは、大家が転勤や海外赴任により自宅を一時的に空けるケースです。
数年間だけ家を貸し出し、帰任後に再び自ら住むことを予定している大家にとって、定期借家は非常に合理的な選択肢となります。
また、数年後に建物の建て替えを控えた老朽物件も、定期借家として募集される傾向にあります。
解体までの期間限定で入居者を募集すれば、建物を空き家のまま放置するよりも賃料収入を得られるメリットがあるためです。
相続で取得した物件を売却するまでの準備期間や、法人が社宅を利用しない時期に限定して一般へ貸し出す際にも、定期借家契約は広く利用されています。
特に法人の場合は、企業の人事異動に合わせて契約を終了できる点が、社宅管理において大きな利点となります。
事故物件を確実に避ける方法

しかしながら定期借家物件がすべて安全とは言い切れない以上、事故物件を確実に避けるための具体的な手順を知っておくことは不可欠です。
不安を解消し、納得して契約に進むための確認方法をまとめました。
告知義務の確認方法
宅地建物取引業法により、貸主や仲介業者は入居希望者に対して、心理的瑕疵(事故物件である事実)を告知する義務を負っています。
心理的瑕疵の項目をチェックする
契約前に交付される「重要事項説明書」には、物件に関する重要な情報が網羅されています。
特に「心理的瑕疵」や「備考」の欄は、過去の自殺や他殺などの事案を記載する場所です。
書類を受け取った際は、該当箇所に記載がないかを必ず確認してください。
もし記載がある場合は、発生時期や内容の詳細を問い、判断材料とする必要があります。
仲介業者へ直接質問する
内見時や商談の段階で、仲介業者の担当者に「過去にこの室内や共用部で亡くなった方はいますか」とはっきり質問することが有効です。
不動産業者は把握している事実を隠して契約させてはならないため、質問に対して虚偽の回答をすることはできません。
「特にありません」という回答を得られれば、少なくとも業者の調査範囲内では事故物件ではないという裏付けになります。
契約前に実行すべきリスク回避策
書類上の確認だけでなく、多角的な視点から物件を精査することで、より確実にリスクを排除できます。
家賃と築年数のバランスを比較する
周辺の類似物件と比較して、家賃が不自然に安い場合は注意が必要です。
定期借家による値引き幅は一般的に相場の2〜3割程度ですが、それを大きく超える安さ(例:半額など)であれば、契約形態以外の理由が隠されている可能性があります。
周辺の家賃相場を事前に調べ、「定期借家という理由だけで説明がつく金額設定か」を冷静に判断してください。
近隣住民へのヒアリングと現地調査
内見の際、建物の共用部や周辺を歩き、近隣住民に街の雰囲気を聞くついでに物件の評判を確認するのも一つの手です。
長く住んでいる住民が、過去の騒動について教えてくれるかもしれません。
事故物件公示サイトの活用
事故物件公示サイトで住所を検索し、過去の投稿履歴を確認する方法もあります。
ただし、投稿内容には真偽不明の情報が含まれる場合や、すべての事故が網羅されているわけではない点に注意が必要です。
あくまで補助的な参考情報として活用しましょう。
まとめ
定期借家に事故物件が多いという噂には根拠がなく、契約形態と物件の履歴は別の問題です。
誤解は家賃の安さや契約期間の制約に対する先入観から生まれていますが、実際には合理的な理由で定期借家が選ばれているケースが大多数を占めています。
もし定期借家を検討する中で不安を感じたら、その場で解消することが大切です。
不動産会社には法律に基づく告知義務がありますので、不明点があれば遠慮なく仲介業者に質問しましょう。



